UPDATE 2010.12.28

PhotoShop CS5 カラーマネージメントの問題点


1.結論

MAC(MacOSX 10.6) PhotoShopCS5(12.0.2)では無補正で印刷する事ができない。

2.事前知識

adobe社では、以下の無補正印刷を説明している。
文書番号:cpsid_84459 (最終更新日:2010-12-10)

ここでは説明上、上記を踏まえて以下のように無補正印刷の言葉の定義をします。
A.タグ無し印刷
 タグ無しデータを以下の条件で印刷した物
 プリントダイアログ-カラーマネージメント-プリンターによるカラー管理
 プリンタオプション-カラー・マッチング-EPSON Color Controls
 プリンタその他-色補正なし
B.スルー印刷
 タグ付き画像データに対してタグと同一プロファイルを出力プロファイルに指定して印刷した物
 プリントダイアログ-カラーマネージメント-PhotoShopによるカラー管理 /プリンタプロファイル にタグと同一プロファイル指定
 プリンタオプション-カラー・マッチング-グレエアウトして選択不可
 プリンタその他-色補正なし
C.外部印刷
 adobeサイト(文書番号:cpsid_84459)掲載のカラーチャートを無補正で印刷する目的の特殊プログラム:ACPUでの印刷

ここで「A.タグ無し印刷」はX-rite社でも同一の方法を説明している。

参考画像
[プリントダイアログ]

[カラー・マッチング]PhotoShopでカラー管理の場合

[カラー・マッチング]プリンターによる管理の場合


なおadobeサイトでは無補正印刷のみを説明しているが、当評価では、便宜上以下の印刷種類を定義します。

D.カラーマネージメント印刷
 これは通常のプロファイルを利用した印刷の事です。
 「A.スルー印刷」とは基本的に同一ですが、「A.スルー印刷」は入力と出力を同一のプロファイルを設定する事で、
 PhotoShop内部でカラーレンダリングが行われない事を利用した特殊な印刷方法です。
 「カラーマネージメント印刷」では、入力と出力に適切なプロファイルを設定した印刷方法です。

E.マニュアルマネージメント印刷
 これは「D.カラーマネージメント印刷」がPhotoShop内部で自動的にプロファイル変換されて無補正印刷されている事を
 手動で行う物です。
 PhotoShopのコマンド「プロフアイル変換」を利用して手動でプロファイル変換を行い無補正印刷を行います。
 論理的には「D.カラーマネージメント印刷」と「E.マニュアルマネージメント印刷」は同じ結果にならなければいけません。

2.検証対象

今回検証した各製品は以下の通りである。

Window7 Ultimate-PhotoShopCS5(12.0.3)-EPSON PX-5600(最新ドライバーバージョン:6.6.1)
MacOSX 10.6-PhotoShopCS5(12.0.2)--EPSON PX-5600(最新ドライバーバージョン:6.6.2 にプリンタドライバアップデータ(公開日2010/11/5)適用))
印刷用ICCプロファイル:PX-5600 PHOTO ENTRY (EPSON提供の汎用プロファイル)

PhotoShopCS5は、12/26にWindows版のみバージョンアップ(12.0.3)されましたが、Mac版は評価時点(12/27)では同一バージョンはリリースされていませんでした。
全て最新環境において、同一プリンタにWindowsとMacをつなぎ替えて評価をしました。

印刷用プロファイルは、製品添付のICCプロファイルを利用しています。
このプロファイルはどういう環境(実際にはプロファイルを作成する上で必要なカラーチャートの印刷)で作成されたかは不明ですが、
プリンターリリース後に発売されたCS5上でカラーチャートを印刷してできあがったものではない という事は確かだと思われます。

プリンタに関しては印刷前に自動クリーニングを行い問題ない事を確認の上、電源ON後30分以上経過してから使用しています。

3.検証方法

3.1無補正印刷

従来無補正印刷が使われる局面は、プリンタプロファイルを作成する場合にタグ無しのカラーチャートを印刷する場合が一番使用頻度が高かったと想定されます。
ここでの検証は、adobe社が説明している無補正印刷である「A.タグ無し印刷」 「B.スルー印刷」 「C.外部印刷」に対して、実際にカラーチャートを印刷後、
X-Rite社の測色機で測色を行い、測色されたデータ間の差異を数値で比較します。
「B.スルー印刷」では、入出力共にadobeRGBを指定しました。

検証用カラーチャートは検証を簡素化する為に、一般的ではありませんがパッチ数の少ない(851色)物で行いました。

3.2プロファイル印刷

通常の印刷運用で使用するプロファイルを利用した印刷を評価します。
「D.カラーマネージメント印刷」と「E.マニュアルマネージメント印刷」に対して、adobeRGBのタグ付き検証用画像を印刷して
測色機で測色を行い、測色されたデータ間の差異を数値で比較します。

検証用画像データとしては数値評価を行う為、以下のような画像(パッチ数285)を印刷しました。

4.検証結果:Windows編

4.1無補正印刷

検証ID 印刷方法1 印刷方法2
結果
W1 A.タグ無し印刷 B.スルー印刷
0.33/0.22
W2 A.タグ無し印刷 C.外部印刷
0.59/0.35
W3 B.スルー印刷 C.外部印刷
0.41/0.24
-図W41A-

結果は各印刷方法間の全てのパッチの色の差分情報を統計値として 平均dE/標準偏差 形式で現しています。
同一チャートを同一環境で印刷して色差を測色しても部分的にはdE1.0以上の変動がある場合も多いので、
ここでは、平均dE及び標準偏差がdE1.0以内であれば問題なしとします。

[結果説明]
Windowsでカラーチャートを無補正で印刷する場合は、どの印刷方式でも、結果は同一と見なす事ができます。
問題ありません。

4.2プロファイル印刷

検証ID 印刷方法1 印刷方法2
結果
W4 D.カラーマネージメント印刷 E.マニュアルマネージメント印刷
0.37/0.23
W5 E.マニュアルマネージメント印刷 E.マニュアルマネージメント印刷
0.90/0.81
-図W42A-

「E.マニュアルマネージメント印刷」は、「E.マニュアルマネージメント印刷」手動でプロファイル変換した時点では、
画像にプリンタプロファイルが添付されているが、更に「プロファイル指定」で画像からプロファイルを削除し、タグなし画像とした物を
印刷した物です。
この評価目的は、「E.マニュアルマネージメント印刷」自体は、実際上無補正で印刷している事を利用しているので、画像にタグ付きとタグ無しが
影響しない事を確認する為に行った。
W5の内容に関しては、追って再評価実施予定です。

プロファイル印刷の検証では、評価画像データのパッチ数が285と少ないので、パッチ数が多いものと比較すると色の変動差が数値に現れやすいので、
それを考慮する必要があります。

[結果説明]
Windowsで画像をプロファイル印刷する場合は、どの印刷方式でも、結果は同一と見なす事ができます。
問題ありません。

5.検証結果:Mac編

5.1無補正印刷

検証ID 印刷方法1 印刷方法2
結果
M1 A.タグ無し印刷 B.スルー印刷
10.51/8.00
M2 A.タグ無し印刷 C.外部印刷
4.69/5.71
M3 B.スルー印刷 C.外部印刷
9.00/5.66
-図51A-

Windowsでの結果「図41A」と比較すると、あまりにも結果間に相違がありどれが本当かが判定できません。

検証ID 印刷方法1(Windows) 印刷方法2(Mac)
結果
M4 A.タグ無し印刷
A.タグ無し印刷
5.02/5.64
M5 B.スルー印刷
9.12/5.74
M6 C.外部印刷
1.21/0.81
-図51B-

Windowsの「A.タグ無し印刷」とMacのそれぞれの印刷を比較したものです。

[結果説明]
検証ID M4/M5から判断して、PhotoShopではadobeが無補正印刷して説明している内容では、適切に印刷できない事が明確です。

検証ID M6から判断して、ACPUは通常では印刷上は問題ないが、精度の高さが要求されるカラーチャートの印刷を行うという観点では、
何らかの色に関する画像操作が入っている事が考えられる。
Mac「C.外部印刷」で何らかの画像操作が行われているとすれば、MAC/PhotoShopの全ての印刷で発生しているのであれば、問題はないと考えてもよい。
つまりこの程度の差分は、正常に個別プロファイルが作成できるのであれば、個別プロファイルがこの差分情報を吸収できると判断できる。
あくまでもWindowsとの比較評価なので、Windowsが間違っているのかあるいは、MacとWindowsの基本的な差分
(以降この問題を「「基本的なWindowsとMac差分」と称する)なのかは判断できない。

5.2プロファイル印刷

検証ID 印刷方法1 印刷方法2
結果
M7 D.カラーマネージメント印刷 E.マニュアルマネージメント印刷
11.80/10.51
-図52A-

「5.1無補正印刷」より無補正で印刷する事に誤りがあるのが既にわかっているので、「E.マニュアルマネージメント印刷」は意味がないが、
やはり無残な結果となった。

「D.カラーマネージメント印刷」についてWindowsとMac間の相違を以下に検証した。

検証ID 印刷方法1(Windows) 印刷方法2(Mac)
結果
M8 D.カラーマネージメント印刷 D.カラーマネージメント印刷
1.72/1.09
-図52B-

「結果説明」
「D.カラーマネージメント印刷」は「基本的なWindowsとMac差分」があるものの概ね良好である。

5.3CS4印刷

Mac 上でCS4とCS5との比較を以下に示す。

検証ID 印刷方法1(CS4) 印刷方法2(CS5)
結果
M9 D.カラーマネージメント印刷 D.カラーマネージメント印刷
0.20/0.14
-図53A-

CS4とWindowsとの比較を以下に示す。

検証ID 印刷方法1(Windows) 印刷方法2(Mac/CS4)
結果
M10 D.カラーマネージメント印刷 D.カラーマネージメント印刷
1.70/1.09
-図53B-

「結果説明」
検証ID M9より、Mac上での「D.カラーマネージメント印刷」は、CS4とCS5は同一と判断する。
検証ID M10は、M8とM9を別な形で検証する形となった。

6.総合結論

総合結論は以下とする。

・WindowsとMacの間にはdE1.0程度の「基本的なWindowsとMac差分」が存在する。
・Windows内での印刷に関しては、問題はないと判断する。
・Mac+CS5では、無補正で印刷する事ができない。
・Mac+CS4/Mac+CS5の「カラーマネージメント印刷」は同一であ。(但しながら「基本的なWindowsとMac差分」は存在するようだ)

現在の環境で個別プロファイルを作成しカラーマネージメント印刷を行うには、
ACPUでカラーチャートを印刷した結果を元に個別プロファイルを作成した物の利用を行えば良好な結果が得られる。
但しながらPhotoShopで「無補正印刷ができない」という明確なバグが存在する中で、CS5上で印刷する事自体危険である。

本来であれば、バージョンの低いMacOS及び、CS3以前のPhotoShopで同一評価を行えば、「基本的なWindowsとMac差分」も明らかになると
思われるが、ここでは行っていない。
障害を引き起こした内容と共にadobeが説明すべき内容だと判断する。

7.感想

Mac上での評価にあたって画面上の印刷指示値など、二人かがりで相互チェックしながら行ったので、操作上の誤りは少ないと思う。

adobeは文書番号:cpsid_84459 で提示している内容を検証もしていない。
それを信じて行っている人達が被った痛みを考慮するような体質ではないと思う。
バグであっても修正しないものもあると明言している。(こういう物は日本の製品にはまずない。)
PhotoShop上に無補正印刷のコマンドをCS5でも復活させた方が良い。

少しでもカラーマネージメントに従事している人は、私のような数値評価を是非行って頂いて、事の真偽を検証して頂きたい。
また、本内容に誤りがあればご連絡下さい(本サイト管理者へメールして下さい)。

8.免責事項

本評価結果をどのような形で利用されても結構ですが、本内容に関しては、当方は一切の責任を取りません。