2012年07月

ジゼル 子供達の全景

[演目]
ジゼル1幕から。
発表会で農民達の踊り部分を、子供達の群舞として踊られています。
[お教室名]
横浜にある スタジオアン さん。
[写真的考察]
D4 + 70-200mmF2.8VR2
バレエの群舞の終わりでは、写真のように全員でポーズを付けて終了というパターンが一般的です。
舞台写真では、撮影位置が固定されますので、基本的には観客席の後方からの撮影になります。
各種条件を考慮して、撮影位置の最適な場所があります。
基本的には、レンズの焦点距離70mmで、舞台の全体を撮影できる位置がベストポジションになります。
この場合、全景からグループ(2間分の長さ)撮影に関しては70-200mm、更にその上としての小さな子供一人を撮影する為に、200-400mmクラスの焦点距離の2本のレンズで、全てが撮影できます。

更に写真のような全景を撮影する場合には、ピント範囲を確保したい為に、できるだけ絞り込んで撮影する事が望まれます。
実を言うと、全景を撮影するというのは、個人を撮影するよりも、色々と考えるべき要素が沢山あります。

ピント範囲を拡大する為に、シャッター速度を落とす事もありますが、手ブレ・被写体プレを考えるとそれほど低速シャッターは使えません。
そうすると、ISO高感度にして撮影する事になりますが、個人の顔の表情までしっかり撮影する為には、ノイズを考慮しなければなりません。
ノイズを考えると、カメラとしては良いカメラが必要で、ノイズ処理のうまい現像ソフトでの現像が必要となってきます。

通常舞台演目中の照明としては、舞台後方の照明が明るくない場合が多いので、単に撮影しただけでは、後方に配置された被写体が暗くなり、適切な全景写真には難しい形となります。
この写真においても、後方の子供達に照明が来ていなかった為に、現像時にかなり暗い部分を明るく処理しています。
舞台写真においては、ダイナミックレンズのコントロールがかなり必要になってきます。

全景写真に関して特に、JPEGのような現場での撮りきり写真という事は、発表会では考えられません。
もちろん、プロの演じるバレエ公演では、ダンサーの一人の一人の表情というよりは、全体としてのイメージを伝える方が重要となりますので、
その場合には、JPEG撮りきりの写真でも良い場合があります。

プロの公演と、発表会写真では求められる物が違い、それに対応してカメラマン側の作業も異なると考えるのが普通だと思います。

サタネラ


[演目]
サタネラ。
物語としては婚約者がいる男性をサタネラという魔性の女(!)が男を奪い取ってしまうという物です。
物語の内容も内容なので、小学生などの演目には採用されない場合が多いです。
この踊りは、あくまでも女性は男性を誘惑するように、時には色気たっぷり、時には小悪魔的に誘いを装ったりという感じが出れば、良いと思っています。

発表会などでは、もっと沢山踊られる事を望みたいものです。
この踊りは、私の好きな演目の一つです。

[ダンサー]
KIDS DANCE M所属 佐藤愛美さん。
既にシニア部門ではありますが、各種コンクールで上位3位以内にも入るテクニシャンです。
彼女の踊りは非常にこなれており、自分の踊る意識と観客が見ている内容が、一致している事を自覚しているような踊りです。

[写真的考察]
D3S + 200-400mmF4
掲載写真は、バレエポーズのパの名前もないようなものです。
しかし大きなパでなく、こういうなんちゃないパの所を抜き出して撮るのがどちらかと言えば、バレエカメラマンの醍醐味であったりします。
サタネラバリエーションの冒頭部分ですが、これから始まる踊りの楽しさが伝わってくるような内容です。
観客席からは表情まで明確に見えなくても、写真であれば、後で表情まで確認できます。
こういうのも写真ならではの表現力だと思っています。
なお写真の現像においては、魔性の女(^_^)を感じさせる為に、パープルを意識的に生かすような現像をしています。

[関連写真]
実際の写真をもっとみたい方に画像を掲載致します。

最後の写真は、カメラマンの私がダンサーに注文してしまった箇所です。(すみません)
シェネで進行して途中にこういう独特なパがあるのですが、コンクールでもこのパに対してどうあるべきかがわからないような物が多いのです。
カメラマンの視点からすれば、そういう一瞬でさえお客様に見せるパ=写真のタイミングなので、そういう事を見せて欲しいという旨をゲネプロの時に彼女に言った結果の写真です。
そういう事も本番で取り込めるフレキシビリィある技術力の高さと考え方の柔軟さが、彼女の一つの良い面だと思ってしまいました。

[トピックス]
KIDS DANCE Mというバレエ教室には、かなり昔から撮影させて頂いています。
一番初めに撮影した時に、写真のダンサーが中学1年生でそれ以外生徒さんは全て小学生以下でした。
中学生1年生にしてその当時70人くらいだったでしょうか、生徒のトップに彼女がいました。
その当時から、頂点として恥ずかしくない踊りを求められているのは、どういう気持ちだったのでしょうか。

その当時お教室の先生によれば、発表会の時などは、小学生高学年はそれ以下の小さい子供達を引率等、お姉さんとしての役割が求められている事には、とても感心しました。
到底学校では教えられないこういう躾けなど、バレエ教室がバレエテクニック以外の重要な役割を持っているのも、社会貢献としての役割なのではないかと思います。

ドン・キホーテ

[演目]
ドン・キホーテ。
説明も不要なくらい有名演目の一つ。

この演目にはドン・キホーテは出演していないのですが…
騎士道物語を読んだアロソン・キハーノが自分を歴史上の騎士ドン・キホーテになったつもりでの、喜劇のような物語になっています。
これもその騎士道物語に出て来るドルネシア姫を現実世界で探した結果、ある村で、主役のキトリをドルネシア姫とまちがったドタバタ演目になっています。

特に演目の最後に踊られる キトリとバジルのパ・ド・ドゥは、テクニック満載である事から、コンクールでは男女ともに踊られています。

[ダンサ]
KIDS DANCE M所属 宇土恵さん。
各種バレエコンクールファイナリスト・各種賞を得ている実力者です。
基本に忠実で的確な踊りをする素敵な方です。

[写真的考察1]
D3S + 200-400mmF4
写真のシーンは女性バリエーションの出だしの箇所です。
写真のようにスパッとポーズを決めてもらうと、やはりカメラマンもそれ以降の踊りに期待感が出るものです。
コンクールでこの演目を踊る時には、この最初のポーズでほぼ全ての技量を見切られていると思います。
ここをミスすると、後のパは、その取り戻しの為から始まるので、得点はあまり期待できない事になります。
写真撮影ではどんな方でも撮影できる内容なので、逆にミスをしない事やトラブルが発生しない事をかんがえてしまいます。
パ・ド・ドゥでは、男女アダージョ、男性バリエーション、女性バリエーション、男女コーダという流れになっていますが、私の場合は基本的には、バリエーション部分はカメラを縦で撮影し、男女部分は横で撮影しています。

そうすると、各パートに移る真の間に、カメラを縦・横位置を切り替える事なりますが、結構この時に、カメラの水平位置をきちんととるのに神経を使っています。
[写真的考察2]

この写真は、女性バリエーション後半部分で上手奥から扇子を手に、小粋なポーズでリズムを取りながら出て来る場面です。
こういう写真は、極端な言い方ですが、私などはダンサーを見てシャッターをきっていません。
ダンサーをカメラのフレーミングに入れて、音に合わせてシャッターをきっています。
もちろんこういう撮り方が出来るのもダンサーがしっかり音に反応した踊りになっていなければなりません。
発表会ではダンサーの技量の幅は非常に大きいですので、ダンサーの技量に応じて撮り方を変えるのがバレエカメラマンならではの特徴とも言えます。
写真のセレクション段階で、やはり足の伸びた瞬間の物をセレクションする事になります。

[付録]
男性バリエーションでは、出だしのデリエール・ダブルバッチュは見所ですね。
この箇所は熊川哲也さんが、ローザンヌ国際コンクールで金賞を獲った時の映像がすごく刺激的でした。
昴さんが刑務所で初めて踊ったのもドンキでしたが、そちらも刺激的な内容でしたネ(^_^)